【雪天(せってん)】
静寂が耳に響く。 そっと吐いた息すら空に吸い込まれるようだ。 重く垂れ込めた厚い雲が一面に広がり、太陽を隠す。 白い。真っ白だ。
あまりにしろくて、とけてしまいそうだ。
いや、呑まれてんのか。 俯く視界に、波打つ流線を見つけて冷静に思う。 全てが白に染まる。 音無く忍び寄る白土の世界。 「おい」 ついと腕を引かれ、現に返る。 目の前の紫紺に蝶が舞う。 「高杉」 「なに惚けてやがる」 眉根を寄せた不機嫌な瞳で問うてくる。 「いや…雪、降るかなって」 「音がしねぇ。……降るんだろうよ」 意外と骨張った手が己のものと重なった。 離さない、といわんばかりに強く握りしめてくる。 「また誘われてんのか」 「?」 ちょうど死角になって表情は窺えない。 しかし、そこに怒りはない。 子ども染みた嫉妬だとか独占欲なども感じられない。 ただ、縋るような頼りなさがあるだけ。 「雪が降ると、昔っからてめーは姿くらまして居なくなる」 「そうだっけ…?」 「先生や…ヅラと捜し回ってようやく見つけたら、雪ん中埋もれるように横たわってるしよぉ」 生者にしてはあまりに顔色がなく。 「死んだのかと思った」 「…悪りぃ、さっぱり憶えてないんだけど」 「だろうな。でなきゃ何度も同じ馬鹿はやらねーだろ」 そんなに雪が好きか。 握られた手にさらに力が籠る。 「誰が誘われてるって?…襲われてんのさ」 音を奪われ、色を失った世界が迫り、逃げていたのだろう。 憶えてはいないけれど。 どんよりと曇った鉛の空を見上げる。 二人ならば行き着く先は違うのか。
もし、今すぐ雪が舞い落ちて来たなら。
この手を繋いだまま、俺を一緒に連れてってくれ。
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最初の5行が書きたかっただけです。 あとは何となく繋がった。
今朝、東海道新幹線が雪で遅れていたらしく。 徐行運転で10分程度の遅れだったみたいですが、 明日は定刻通りに動いてくれ。頼む。
当日会場へお越しいただける方、どうぞよろしくお願いします。
では、行ってきます。 |