【ハッピー・トゥー・ユー】
なんだ、これは。
銀時の家を訪ねてみれば、玄関先に出てきたのは幼馴染だという桂で。
通されたリビングには、友人である坂本も居て。
そのテーブルには、チョコレートの山があった。
山としか表現できないくらいの量だ。
思わず右手に持つ紙袋の中身を確認してしまう。
甘い物好きな銀時に押し付けるつもりのチョコレートが入ったそれ。
友チョコブームの割には、女子から貰う数は例年と変わりなく。
今年は数年ぶりに平日のバレンタインとあって、むしろ余計に増えたくらいだ。
下手に断るといろいろ面倒くさいので、渡されればとりあえず受け取るのだが、それでも目の前に積まれたチョコの数には及ばない。
もしかしなくても、これぜんぶ銀時が貰ったのか?
「驚いただろ。まあ、銀時の場合は親愛の逆チョコで友チョコ交換ってところだがな」
毎年持ち帰るのに一苦労だ、と緑茶を啜りながら桂…ヅラが説明してくる。
「だからおまえらも居るのか」
「荷物持ちじゃ。金時ぃー、わしはコーヒーで頼むぜよ」
キッチンへ向けて坂本が声を掛ける。
「銀時だっつーの!晋助も同じでいい?」
「ああ」
姿が見えないと思ったら、そこで何やら作ってるらしい。甘い香りが漂ってくる。
「安心しろ。貴様の分もあるぞ」
「おんしのは特別製じゃと」
「愛だな」
勝手に納得して頷きあう二人。わざわざ訂正する気もないので放っておく。
それよりも…
「本当にこのチョコ全て義理か?」
問題はそこだ。
「いや、本命もある。あと放課後に呼び出されもしてたぞ」
「みんな断っちょったし、その辺は心配いらんぜよ〜」
「複数いるのかよ。つーか、銀時は自分からその手の話はしねぇはずだ。何で振ったこと知ってんだ」
「出歯亀したからな。まちがいない」
詫びれもせずにヅラが平然と言ってのける。隣のモジャも頷く。ひどく楽しそうだ。
「てめぇら…今すぐ帰れと言ってもその気なしだろ」
「貴様の期待通りだ」
「してねぇ」
舌打ちしか出てこない。追い出したところでまた出歯亀するに決まってる。それか嫌がらせの電話やメールをしてきそうだ。
別に見られても構やしないが、なんとなくムカつく。
「高杉弟」
「…高杉か晋助にしろ。この場に兄貴はいねぇ」
そういやこいつも高杉呼びだったな。あの学校で兄を『先生』と慕う生徒は果たしてどれほどいるのか。
「高杉、安心しろ。好いた、惚れたの恋心では銀時の気持ちは動かせられない。あいつが今いちばんほしがってるのは、家族の愛情だからな」
視線を動かして広い部屋を見渡す。2人暮らしだという銀時の家は大きな一軒家だ。しかも養父であるたった一人の家族は海外赴任で留守にしている。
寂しくないはずがないのだ。
銀時と初めて会った日のことを思い出す。
「いま銀時の最も近い場所にいて、なおかつ素直になれる相手は、おそらくお前だ」
「気休めか」
「本心だ」
心外だな、と肩をすくめて笑う。
「わしらだと下手に近すぎてダメなんじゃ。友達ゆーても言えんことだってある。銀時が頼った時はよろしくしてやってほしいぜよ」
坂本も目を細めて笑みを浮かべる。名前、覚えてんじゃねーか。
「悪りぃ!待たせた」
そこへバタバタと銀時がリビングへやって来た。
両手のトレーにはコーヒーが入ったカップと…
「焼き菓子?」
「スイートポテト!」
はじめて作ったんだけどな、と照れながら銀時が皿を差し出してくる。
「ちゃんとラッピングするつもりでいたら、晋助来るっていうし…もうこのままでいいよな?チョコ以外の甘くなさそうな甘いもんがわかんなくて当日になってさ。あ!晋助ってバレンタインやらない派?俺は毎年やるんだけど…」
呆気にとられて黙ったままでいると、沈黙が気まずいのか間髪入れずに喋り続ける。
「銀時」
持参したチョコレートを再び確認する。
袋の一番上には、銀時のために用意した特別な品。
さて、どんな言葉とともに贈ろうか。
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あまりに原稿の方が残念な進行で寄り道です。
今年は【銀さんと高杉兄弟】でやってみた。
銀さんと高杉が同い年で学校違う、というマイ設定。
詳しくはギャラリーのtextをご参照ください。
…たいしたこと書いてないですが。
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変わらぬ拍手絵で申し訳なく……
そろそろ新しいのにしたい。桜が咲くまでにはなんとか。