1年前に思いついて放置していたネタをざっくり整えてみました。
微妙に季節もので時期を逃してしまい、出すに出せなかった話です。
銀さんと土方しか出てきません。(高銀前提)
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【途中下車】
ガタン、ゴトン、ガタンガタン…
心地よい電車の揺れと僅かに開けた窓から運ばれる新緑の風が眠気を誘う。
仕事中だということを差し引いたとしても、目の前の人物が居ては意識を手放すわけにはいかなかった。
「んで、てめぇが電車なんか乗ってんだよ。万事屋」
「その言葉。そっくりそのままバットで打ち返してやるよ、副長さん」
気怠そうに常と変わらず死んだ魚のような視線を向けてくる。
他に乗客もおらず空いてる席はいくらでもあるのに、なんでよりにもよって向かい合わせの座席で顔を突き合わせなければならないのか。
「おい。後から来てわざわざ目の前に座られてこっちは迷惑してんだ。退け」
「江戸を護るおまわりさんが、パトカーも使わずわざわざ郊外まで出向くなんざ珍しい」
裏で重大事件でも追ってるわけ?
のらりくらりといつもの調子で切り返してくる。
一瞬だけ。紅い眼が剣呑な光を帯びた気がした。
「興味あんのか?」
「べっつにー。ただ、万が一にも巻き込まれちゃ面倒だと思って」
頬杖をついて車窓の外へ向く横顔。やわらかな風にあわせて銀糸がなびく。
「そういや、てめぇこそ何処へ行くんだ?」
「職務質問ですか?職権乱用ですかー?コノヤロー」
「ちげーよ。ただ…」
「花見」
遮るように一言。どこか喜々とした声音が続く。
「毎年この時期になるとやってくる依頼さ」
「花見って…桜はとっくに散ったぞ」
「桜だけが花じゃないだろ。あれさ」
流れる景色の遠い紫色…だろうかを指差す。
「わかんねーよ」
「藤棚。このあたりは藤の花で有名なんだよ」
「ふぅん」
まさかこの男の口から花の話題が上るとは思わなかった。生返事しか出ない。
「で、そこ行く時はいつもここ座んの。ここは俺の特等席なの」
「……だから俺が退けってか」
「正解」
「てめっ…!」
リンリーン、リンリーン…
黒電話の着信音が鳴り響く。誰の携帯だと問わなくてもわかった。
「携帯鳴ってんぞ」
「俺?」
「俺じゃなきゃテメーしかいねぇだろうが」
ごそごそと懐を漁って携帯電話を取り出すが、画面を見つめたまま一向に出ようとしない。
着信音がやかましく鳴り続く。
「何やってんだ」
「なぁ…これ、どう出んの?」
「は」
「あんま使わねーし」
マジか。現代人として大丈夫か、こいつ。
説明するよりも早いと判断して、脇から通話ボタンを押してやる。
「一応車内だし、手短に済ませろよ」
「お、サンキュー。もしもし…」
なかなか出なかったせいだろう。「悪りぃ」と謝罪の言葉がきこえてくる。
話している本人はまったく気にしてないだろうが、なんだか聞き耳を立てているようで気まずい。
「んー…あと2駅くらい。今年も満開みたいじゃん。あ?………うるせぇよ」
漏れ聞こえる会話から察するに、相手は例の花見の依頼者なのだろう。
その割には随分とくだけた口調だ。毎年だというし、それだけ親しい間柄なのか。
携帯を手にしたまま、すいと万事屋がこちらを見つめてきた。
まただ。無機的なくせに、刀のような鋭さを感じる。
「わかった」
今度は難なく電話を切ると、徐に立ち上がった。
「俺、次で降りることになったから」
じゃ、と去り行く腕を捕らえる。
「何?」
「降りる前に、ひとつだけ答えろ」
確証はない。引き留めたのは、ただの勘。だが…
「花見の相手は、誰だ?」
さっき。ディスプレイに表示された名前は。
「高杉晋助、じゃないのか」
潜伏先がこの辺りだとすると、山崎が報告してきた情報とも一致する。
「…勘ぐり過ぎだろ」
呆れた、とわざとらしい溜め息を零す。
逃げられないように、掴んだ腕へとさらに力を込める。
「杞憂で済むならそれにこしたことはねぇ。イエスか、ノーか。てめーはそれだけ答えりゃいいんだ」
「ノー」
間髪を入れず返ってくる。
「嘘つけ!」
「言い掛かりもいい加減にしてくんない?」
「納得できるかっ」
「じゃあ、一緒に来ればいいじゃん」
「!」
まさかの提案に腕から力の抜けたを見逃さず、万事屋がするりと離れて行く。
「それができればの話だけどね」
「どーいう意味…」
ブブブブブブ…
胸の内ポケットで携帯が震える。タイミングが悪いにも程があるだろう。
無視しようにも、表示された相手は山崎だ。何か進展があったのかもしれない。
奴を追いかけるべきか、否か。
逡巡する間にも、電車を降りてホームへ消えて行く白い後ろ姿が見えた。
発車ベルの音はすでに止んでおり、無情にもドアが閉められる。
「………何があった」
電話の向こうで、山崎の慌てた声が急務を知らせる。
次の駅で引き返せねばなるまい。
車窓の外には、藤色の景色が続いていた。
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ジャンプ。
銀さんがメールを一斉送信できたことに驚きました。
携帯を持たせたところで、原始人並みに扱えないと思ってました。
(どこまで貶すつもり?)
でも、一度操作を覚えればすんなり使ってそうです。
神楽を見よう見真似で使えるようになったか、
はたまたすでに高杉が持たせていたら良いと思う。
高杉のアドレスしか登録されてない銀さん専用携帯電話。